ゾンビパニックの中で、「主人公だけが、襲われない」というシチュがあります。
これは、WEB小説に端を発したジャンルで、「俺ツエー!」の一環です。
ゾンビのあふれた世界で俺だけが襲われないは、いかにも、なろう系。
しかしながら、ここにあるのは男女の性と、生き様だけ。
作品の概要
『ゾンビのあふれた世界で俺だけが襲われない』は、レジェンドです。
なぜなら、このジャンルで出版に漕ぎ着けたから。
18禁の「なろう」で年間1位
ネットで投稿する、小説サイト。
最大手の「小説家になろう」には、18禁の「ノクターンノベルズ」もあります。
そこで、年間ランキング1位だったのが、『ゾンビのあふれた世界で俺だけが襲われない』です。
ゾンビ物は、そもそも小説という媒体に向いていません。
映像や演出で魅せるもの。
それなのに、一般向けと比べてマイナーな「ノクターンノベルズ」で、堂々の書籍化!
『ゾンビのあふれた世界で俺だけが襲われない』はエログロ有りで、本物のパンデミックとの戦いがあります。
ゾンビパニックの生々しい現実
主人公は冴えない男。
まだ若く、イケメンであるものの、仕事が上手くいかず、単身用のマンションに引き籠もってのゲーム三昧。
ところが、ふと気づいてみれば、外の世界は……。
なろう系として「噛まれたけど、ゾンビにならず。仲間と思われているのか、他のゾンビから襲われない」のチートを獲得!
これだけなら、凡百のWEB小説と同じ。
でも、『ゾンビのあふれた世界で俺だけが襲われない』は、主人公の一人称をメインに、その心理描写が卓越しています。
記号ではない美少女と生き残る
「男の人って、いつも、そうですね! 私たちのこと、何だと思ってるんですか!?」
WEB広告でかなり目についたから、覚えている方も……。
このセリフは、『ゾンビのあふれた世界で俺だけが襲われない』に登場します。
「オッパイがついた生オナホだ!」と返したいですが、主人公はわりと真面目に答えます。
もっとも、その返事は、藤野深月が望んだものとは限らず。
ヴァイゼの感想
「ゾンビ女や生存者を集めて、レッツパーリィだ!」
そういう方には、向いていない作品です。
日本のゾンビ物として殿堂入り
海外で生まれた、ゾンビ作品。
「仕方なく、人をぶっ殺せる」という環境がウケて、今でもシリーズ化されています。
日本でも、萌えアニメ、18禁エロゲ―との融合。
合体事故を起こしたように、美少女たちが暴漢やゾンビたちに犯されます。
『ゾンビのあふれた世界で俺だけが襲われない』は、リアリティが高め。
その意味では、『The Lust of You ~退廃世界で美女たちとヤリ放題~』に近いです。
ただし、こちらの主人公である武村雄介は、良い子ちゃん。
「大人だから、何があっても見捨てない!」とならず、「筋を通すが、一方的な要求はキッパリと断る」という、絶妙なバランスです。
単純なノベルゲーだが興味深い
「主人公をイジメるか、罠に嵌めていたのに、同じ学校の生徒、女子というだけで助かる」
この展開に納得できなかった方にこそ、お勧めします。
『ゾンビのあふれた世界で俺だけが襲われない』は、そのモヤモヤを吹き飛ばしてくれます。
前述した世間知らずで周りにチヤホヤされてきた美少女、藤野深月の発言に対しても、「お前、何を勘違いしているんだ?」と、冷静なツッコミ。
すでに完成されたキャラと、世界観。
それゆえ、武村雄介と一緒に、現代文明が滅びた街を歩いていく感じ。
藤野深月は、リアルの女子校生と同じ反応。
セックスどころか、見知らぬ男に触れられることも嫌がります。
しかし、この極限状況で、無条件に助ける人間はおらず……。
なろう系の主人公が悩む
同じマンションで同じ階にいる美人OL、黒瀬時子を犯します。
ゾンビ化しているものの、目が虚ろというだけで生身のよう。
捕らえた時子は、主人公が性欲処理をする相手。
そのおかげで、藤野深月と遭遇した時もいきなり暴行せず、冷静に対応できました。
細かい話ですが、「不能や信仰による誓い、訳の分からない理由にしなかった」という展開も、この作品がヒットした理由の1つ。
武村雄介にとっては、「ゾンビが邪魔なだけ」という環境に。
それを見た人々が勘違いして、外へ出てきたら、ゾンビ達に食われる場面も……。
雄介は人格破綻者ではないから、「俺のせいで……。いや、こいつらが自分で出てきただけ! 気にしても、仕方ない」と、葛藤します。
ヘイトを集めないよう、細心の注意を払っていることが、よく分かりますね?
群像劇の人間ドラマを楽しめ
『ゾンビのあふれた世界で俺だけが襲われない』に登場するキャラは、記号ではありません。
モブですら自分の考えを持ち、独自に動くのです。
一般向けの「なろう」では、「もう大丈夫だよ! 僕たちのホームに来なよ!?」となる場面でも、武村雄介は「知らん」と言うだけ。
この序盤では、雄介も訳が分からず。
色々な人物と会うことで、危機感を募らせていく流れ。
藤野深月に対しても、「ペットの面倒を見る」の感覚で、食料を渡しただけ。
ここは、人としての恩情です。
自己評価が高い深月は、狭い空間に閉じ籠っているストレスもあり、一方的に要求するだけ。
辟易した雄介が「じゃあ、抱かせろ」と言ったことで、前述の有名なセリフに……。
原作のイメージとして秀逸
一枚絵から、『ゾンビのあふれた世界で俺だけが襲われない』の世界を感じとれます。
原作では描写しきれない、細部まで。
たとえば、主人公の武村雄介は、いかにも男の部屋に住んでいます。
安っぽい棚と、低い台の上に薄型のテレビ。
作業をしやすいデスクと、意外にも座り心地が良さそうな、ヘッドレスト付きでメッシュが支えとなる椅子。
これらを見るだけでも、「おー、そうなのか!?」と、感動できます。
残念ながら、これはアニメ化されません。
藤野深月との純愛になっており、エロアニメの見所が少ないから。
普通のアニメとしても、彼は人々を救う主人公にあらず。
決して抜きゲーではないものの、その人間ドラマは秀逸。
チートで虐殺をせず、美少女を見れば欲情する「普通の若い男」が、ポスト・アポカリプスの世界を旅します。